【Archives】木の仕事の現場から「有限会社 猪股林業」

「木育」の素晴らしいところの一つは、木を知ろうとする時に、森の成り立ちや山の歴史から木の本質を探ろうとする点だ。
自然とのかかわり合い、国と、街と、人々との関わり合いを知ることによって得られる木のありのままの情報は、上辺だけではない、木の未来にとって本当に必要な対策や考え方を導き出し、それがしっかりと自分たちの問題として捉えられる所にある。
今回はまさにこれがなければ木製品など存在しない、森から木を切り出すのが仕事、有限会社猪股林業の代表取締役猪股政子さんから様々なお話を聞くことが出来た。

有限会社猪股林業は代々林業に携わってきた家系で、昭和60年に法人化され、民有林の山の手入れ・林地購買・素材生産など山と木に関する業務を行っている。
林野庁は2021年の日本の木材自給率を50%以上にすることを目標に掲げており、近年は少しずつ上昇し、2016年は34.8%だった。
近年、映画などの題材にももなり「林業」という職業が注目されたこともあったが、現実は厳しいという。

「自然を相手にする仕事なので、常に自分の力で考え、判断する必要がある。それが面白いところで、やり甲斐でもある。でも求人してもなかなか若い従業員が集まらないし、定着率も悪い。山の中で仕事をする以上、3Kどころじゃなく厳しい現場もある。人材を育成していくのが難しい状況です」

日本の森林は空前の伐りどきを迎えていると言われている。戦後、植林された人工林、特にスギが伐りどきなのだ。
確かに秋田県全体を見回しても、里山は杉の人工林に覆われている。しかし、林業の数十年におよぶ生産サイクルは、資源としても資産として難しさをはらむ。

「品質の良い木材を伐り出すためには定期的な下刈、間伐などの山主の手入れが必要不可欠です。最近の山主は世代交代が進み、山に興味がなく、代々所有している山の所在すらもわからないという相談も多くなってきています。最終的に品質の良い木材を生産していくためには山主の山や木に対する前向きな意識の変革も求められます。しかし、経済的な面で考えると費用をかけてまで手入れしても、その金銭的な恩恵を受けるのは何世代か先の子孫の話になってしまうので、なかなか厳しいのが現状です」

7割を超える森林率を誇る由利本荘市は昨年2月に「ウッドスタート宣言」を行った。
これは、「木」を真ん中に置いた子育て・子育ち環境を整備し、子どもをはじめとする全ての人たちが、木の温もりを感じながら、楽しく豊かに暮らしを送ることができるようにしていく取り組みだ。
「木育」自体は産業全体にとってはごく小さな取り組みかもしれない。しかし、「木」を真ん中に置く暮らしを始めることが、林業・林産業の未来を明るく照らすことに繋がっていくに違いない。

木を知ろうとする時、街の様々な現状に触れ、それらが全て自分たちの問題である事に気づく。
この街の林業の未来は、即ちこの街の木育の未来である。

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