映像ディレクター / 柳原 正(秋田県由利本荘市)

 長野県諏訪地域を拠点に、長年、映像ディレクターとして活動していた柳原正さんは、50代後半で秋田県由利本荘市が募集していた地域おこし協力隊への応募、という大きな決断する。縁もゆかりもない秋田県。鳥海山のことは知っていたけど・・・地域のことは予備知識ゼロ。それでも人生の新しいステップに進むことを決めた。

柳原正さん(以下、柳原)
2023年4月に由利本荘市の「アウトドアレジャー担い手育成プロジェクト」の一員として着任することになりました。長年携わってきた映像の世界と、趣味のアウトドアレジャーで役に立てるかもしれない、そう思ったのがきっかけです。
 暮らしていた長野県諏訪地域は周囲を山々に囲まれた盆地ですが、日本を代表する山岳リゾートである八ヶ岳や霧ヶ峰高原、そして南アルプスの山々から、さらに足を伸ばせば北アルプスまで、数多くのアウトドアレジャースポットが点在しています。その中で自分も当たり前のように遊び、そこから多くのこと教わりました。そして、それを映像として切り取り人々に伝えることを生業としてきました。

 任期中、愛犬家でもある柳原さんは、オートキャンプ場でのドッグランイベントを開催。また、由利本荘市のアウトドアレジャーの魅力を発信するWebサイト「ゆりほんジョイ」を開設し、取材と情報発信を行うなど、様々な活動を通じて由利本荘市と鳥海山麓の現状について理解を深めるとともに、魅力の掘り起こしを続けてきた。そして、2026年3月に地域おこし協力隊としての3年の任期を終えた柳原さんは、またしても大きな決断をすることになる。引き続き、ここを拠点にして生活し、活動していくことを決めたのだ。

柳原)
秋田での生活も3年が過ぎ、良くも悪くも地域のことを広く知ることになりました。とは言ってもまだまだ表面的な部分かなという思いもあります。出会う方々は皆やさしく、食べ物も美味しい。でもその中で一番気になったのは、ここに暮らす人々が、地元のことを知らないということです。おすすめの場所は?おすすめの食べ物は?と聞かれても答えられない方が多い。そして一番多い答えは「ここには何もない」です。
 鳥海山というシンボリックな存在があり、その周辺には誇るべき自然の豊かさがある。森も高原も、海も川も湖沼もある。すばらしい素材はたくさんあるのに、それらを形ある商品やサービスとして届けるリソースが全体的に不足していると感じます。景色を見ながらゆっくり過ごせる場所、地域食材を美味しく食べられるお店、地域の魅力が伝わるお土産品など、なかなか思いつきません。
 とにもかくにも、「地域の魅力を一人でも多くの人に伝えていきたい」と思う人を増やしていきたいですね。そのためにも地域の人々にこの地域の魅力を再認識していただけるような取り組みを続けていきたいと思っています。

 アウトドアレジャー先進地の信州長野で過ごした柳原さんだからこそ気付けることがある。ここに足りないもののことを言いだしたらきりがないのは周知のこと。地域のことを知る、好きになる、人に伝えたくなる。まずはそんなことから始めるのがいいのかもしれない。近年は学校行事として鳥海登山を行う学校も減っている。さらには観光パンフレットに載っているスポットさえ訪れることがないまま地元を離れる子どもも多い。自分が生まれた街のこと、地域のことを誇りに思い、自慢できる。そんな人が増えて欲しい。それがきっとこの地域の魅力向上に繋がり、さらには「行ってみたい場所」として人々の心に浸透していくきっかけになるのかもしれない。

 柳原さんは、由利本荘市に移住した3人で移住者写真展「Perfect Location -by the 3-」を2026年3月に開催し、四季折々の自然、地域での生活や文化など、ここに暮らして見て感じて切り取った、新鮮な視点が好評を得た。
 そんな彼の写真の一部が、なんと鳥海山の山頂に展示される。鳥海山山頂の山小屋に夏の営業期間の間だけあらわれる鳥海山頂美術館で「柳原正 写真展 ~鳥海山の見える街で~」が開催される。期間は2026年7月4日(土)~8月23日(日)まで。

鳥海山頂美術館

鳥海山頂美術館とは

秋田県と山形県にまたがる日本の秀峰「鳥海山」の最高峰、新山2236mのすぐ下、鳥海山大物忌神社本殿のある山頂参籠所の一画で山小屋の夏期営業[7月初旬〜9月初旬]のあいだ姿を現す小さな美術館「鳥海山頂美術館」です。

鳥海山頂美術館 公式HP https://chokaitribe.jp/cmm/

Interview / 松本 学 Editor / 齋藤 渉