【Archives】組子職人と行く由利本荘まち歩き「ちょっと一杯、もう一杯」(その2)

佐藤咲夫氏に秋に会うと、決まってこちらから頼んでもいないのにボロボロのガラケーをピコピコいじりながら、もはや懐かしい画質のいわゆる写メなのだが、今朝採って今朝撮った、採りたて撮りたてのキノコの写真を、その捕獲ストーリーとともに見せられる。いや、見せていただける。
そう、彼はキノコを愛している。キノコを愛しすぎて森の名人(※)にも選出されてしまう、自他共に認めるキノコ愛好家である。

この記事を書こうとする数週間前に、佐藤咲夫氏の「現代の名工(卓越した技能者)」受賞が決まり、今回の取材会場となった「酔処 和さ美(わさび)」での取材は自然と彼の祝賀会となった。
無論「和さ美」のママさんが作る料理の至る所に、今朝採れたての咲夫キノコが散りばめられた。
やはり写真より実物、実物より調理され、味覚に届けられるのは大変ありがたく、立派な高級朝摘みキノコの料理は言わずもがな贅沢の極みである。
佐藤咲夫氏のこれまでの作品を知り、その作品が創られた工程や発想の特異さを想像できれば、特別驚く事もない今回の受賞に、「えっ!まだ現代の名工じゃなかったの?」という別の驚きがあったぐらい。
勿論その活動の年数や活動の質、社会貢献的役割や後身への伝承活動なども審査の対象になったはずで、そこにはやはり一人の人間としての成熟、という本質が評価されたといえる。

「俺が本当に良かったと思うことは、今の今まで自分のやりたいことをやりたいようにやってこれたことだ。それをやらせてくれた女房や周りの人たちに本当に感謝している」

自分で採ったキノコ料理をつまみに大好きな日本酒を身体に流し込み、まるでその酒の着地音が言葉になって聞こえたような心からの想い。
私達はいつも探している。この街の中にすでに在る答えを。この街で、好きなことを好きなように好きなだけやり続け生きていく。
それを体現するこの街の大先輩が口にしたのは、自分への賛辞ではなく周りへの感謝だった。
一応、本人の見解を聞いてみた。なぜ現代の名工にたどり着くことが出来たのか?

「俺のアレは例えるなら紫なぎなた茸みたいなもんだ。松茸のような立派なものを持たなかった俺という男の運命は、おのずと手先の技をひたすら磨くことになったってわけだ」

えっ、俺のアレ?紫なぎなた茸?って下ネタかよ!

佐藤 咲夫 さとう・さきお
工房 咲 代表(由利本荘市石脇)
秋田県工芸家協会作品展工芸大賞 6 回受賞
秋田県知事賞 16 回受賞
秋田県芸術選奨 受賞
現代の名工
森の名人

(※)森の名手・名人
(公社)国土緑化推進機構では、「もりのくに・にっぽん運動」のリーディングプロジェクトとして、森に関わる樵、炭焼き、木地師、大工、椎茸生産等の生業において、優れた技を極め、他の模範となっている達人を「森の名手・名人」として、毎年選定を行っている。佐藤咲夫さんは平成26年度に加工部門で選定されました。


酔処 和さ美
由利本荘市谷地町1
☎ 0184-24-6028
営業時間:18:00~25:00
定休日:不定休

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